佐野元春ファン歴30数年のNEPPIEです。
1989年頃、音楽雑誌「シンプジャーナル」に掲載されていた佐野元春の記事を読んだ時、彼の音楽の新たな魅力を引き出している文章に衝撃を受けました。
文章を書いたのは、長谷川博一。
当時シンプジャーナル編集部に在籍していた長谷川さんは、ライターとしても雑誌で多くの記事を書き、後に音楽評論家として様々なメディアや本で評論やインタビューをしていました。
長谷川さんの文章を通して音楽の魅力に多くの気づきを得たので、これからも読んでいきたいと思っていた2018年7月8日、悲しい知らせが届きました。
有能ある音楽評論家の訃報
佐野元春さんのオフィシャルFacebookで悲しい知らせを知りました。
長谷川博一さんが2019年7月8日に亡くなられたとのことです。58歳という若すぎる死にショックを隠せませんでした。
佐野さんのファンになって30年以上経ちますが、ずっと元春ファンでいたいと思ったきっかけの一つが長谷川さんが書く文章でした。
自分のFacebookで追悼投稿を書きました。
音楽評論家・長谷川博一さんについて
長谷川博一さんのプロフィールを紹介します。
長谷川 博一(はせがわ ひろかず)は、日本のフリーライター。
北海道小樽市生。青山学院大学経済学部卒業後、出版社や音楽プロダクション勤務を経て、90年代よりフリーランスの活動を開始。音楽や格闘技についての著作が多い。
詳しいプロフィールはHEAT WAVEの山口洋さんが書いた追悼記事に書かれてます。
音楽を真摯に聴くきっかけを与えてくれた「シンプジャーナル」での評論
長谷川さんの事を知ったのは1989年頃、今は無き音楽雑誌「シンプジャーナル」で編集・ライターをやっていた長谷川さんは、佐野元春さんの担当でした。
発売されたばかりの「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」を引っさげて開催された「ナポレオンフィッシュツアー」に同行し、佐野さんにインタビューを行い、ライブレポートを書いていきました。
長谷川さんの視点から見たアグレッシブな元春とバンドの姿を届けてくれていて、読んでいる私自身もワクワクと興奮を感じさせるものでした。
ちょうど元春のライブに行き始めた頃と重なっているので、よりリアル感が伝わったように思います。
シンプジャーナルが休刊になることを知ったとき、驚きを隠せませんでした。硬いイメージを感じつつ、幅広いミュージシャンを取り上げて読み応えがあった雑誌だったので、これからも読めると思ってたからです。
最終号の佐野さんの記事は、「ナポレオンフィッシュツアー」ラストの中野サンプラザのライブレポートと長谷川さんによるインタビューでした。
「シンプジャーナル」を読み始めた時期は、アルバム「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」が発売された頃でした。
ナポレオンフィッシュツアーが始まり、毎月ライブレポートが掲載されましたが、ライターは編集者である長谷川さんでした。
ライブの臨場感を冷静な視点で描いているライティングに惹かれていきました。
私が初めて生で観に行った元春のライブ「横浜スタジアム89夏」のライブレポートです。元春の鋭さを限られた紙面で忠実に掲載されているのにすごさを感じました。
振り返ると、シンプジャーナルで長谷川さんによる佐野さんの記事を通して、音楽に真摯に向き合い、伝えていく長谷川さんの姿勢を通して、私も真摯に元春の音楽を聴いていきたいという思いが出てきたように思います。
休刊になったシンプジャーナル、1989年から休刊まで発売された号は未だ捨てられず、実家に残ってます。懐かしいミュージシャンがたくさん登場していました。
シンプジャーナル休刊を知って、長谷川さんに手紙を書いたら返事が来た!
シンプジャーナルの最終号には、編集スタッフが最後の編集後記がそれぞれ1ページ載ってましたが、長谷川さんのコーナーでは休刊(事実上の廃刊)を惜しむ思いと多くの人たちへの感謝が綴られてました。
欄外に長谷川さんの住所が載っていたので手紙を出したら、ほぼ1年後に年賀状で返信がきたのが嬉しかったです。
手元に残ってるか探してみたけど見当たらなかったのですが、東京ドームで開催されたジョンレノントリビュートライブに出演した元春の様子を書かかていた記憶があります。
インタビュー本「ミスターアウトサイド(わたしがロックをえがく時)」から感じる真摯さ
長谷川さんは1991年、9人のミュージシャンによるインタビュー集「Mr.OUTSIDEーわたしがロックをえがく時」を刊行しました。
9名のミュージシャンが「ソングライティング」をテーマに長谷川さんがインタビューしたインタビュー集です。
登場ミュージシャンは以下の9名。
- 泉谷しげる
- 忌野清志郎
- 小山卓治
- 佐野元春
- 知久寿焼
- 友部正人
- 中川 敬
- 宮沢和史
- 山口 洋
今回の訃報を機にインタビュー集を読んでみました。
ソングライティングをする上でミュージシャンが取り組んでいることを丁寧に聞いている長谷川さんの姿勢に改めて敬服しました。難しい質問も多かったと思うけど、丁寧に答えるミュージシャンの姿が印象的で、当時何度も読み返してました。
佐野さんが丁寧に歌詞について語ってます。特に初期の名曲「情けない週末」を例に歌詞の世界を語ってるのを読んで、情景が思い浮かんで、歌の世界に入ったような感じになりました。
「ミスターアウトサイド」が刊行された1年後、佐野元春さんはアルバム「Sweet16」の1曲目に同名のタイトル「ミスターアウトサイド」を入れたのも不思議なつながりを感じます…。
1993年には7名のミュージシャンにインタビューした本「きれいな歌に会いにゆく」も刊行されています。見かけたら読んでみたいです。
長谷川さんの本が「佐野元春のソングライターズ」が生まれたきっかけにもなった
佐野さんは公式Facebookに書いた追悼投稿で、こう書かれてます。
音楽評論家で良き友人の長谷川博一さん。
彼が出版した「Mr.OUTSIDEーわたしがロックをえがく時」という本がある。ソングライターがソングライティングについて語るインタビュー集だ。この本の中で、自分は「情けない週末」という曲の詞について語ったのを覚えている。詞作りについて何も隠さず話した。とてもいいインタビューだった。
それから十数年経って、自分はNHK総合TVで「ソングライターズ」という番組を立ちあげた。ソングライターたちに、ソングライティングの方法について聞く番組だった。
振りかえれば、この番組を企画した時、長谷川さんの本のことが記憶にあったのだと思う。そのことに感謝の気持ちを伝えたかったが叶わなかった。
「ソングライターズ」がこの本からインスパイアされて生まれた番組でもあったのは驚きでした。でも考えてみると、長谷川さんが元春に対してソングライティングについてインタビューしたことを受けて、今度は元春がミュージシャンにソングライティングについてインタビューする。深いつながりを感じました。
評論「コヨーテとは私。」を読み返して感じたこと
長谷川さんは元春のオフィシャルサイトに評論を寄せてました。
アルバム「COYOTE」についてです。
タイトルは「コヨーテとは私。」
元春は追悼投稿の中でこう書いてました。
その評論は当時、闇雲に走っていた自分に自信を与えてくれた。
長谷川さんの書いた評論を読んだことで、元春自身が励まされていたんだなぁと、その記事を読み返して感じました。
プロレスにも愛情を注いだ評論を執筆
最近は音楽雑誌を手にする機会が少なかったので、長谷川さんの文章に触れる機会が少なかったのですが、音楽だけでなく、プロレスの本も手がけていたのは驚きでした。
なんと、今年1月にプロレスのことを書いていた記事を発見しました。「イッテンヨン」!
HEATWAVE 山口洋さんの追悼記事に涙。
「ミスターアウトサイド」にも登場していて、長年の友人として付き合いがあるHEATWAVEの山口洋さんが長谷川さんへの追悼記事を寄せていたので、読んでみました。
亡くなる1年前頃から病になっていたのを知りショックでした。それでも仕事への復帰に意欲を示していたそうです。
山口さんの追悼記事を読んで、最後の最後まで真摯に向き合ってる姿が伝わってきて、また涙が出そうになりました。
HEATWAVEのウェブサイトにある日記を読んで更に涙が…。
音楽に対して深い愛情を込めて書き続けていたことに感謝です
佐野元春さんは追悼投稿でこう書いています。
長谷川さんは、いつも優しい眼差しを忘れない書き手だった。
私も同感です。長谷川さんが書いた文章にはミュージシャンへの深い愛情が込められていて、耳に心にすっと感じました。
まだ58歳、早すぎます。
もっと長谷川さんの文章を読みたかった。
出来たらお会いして、お礼を言いたかった。
評論を通して、音楽に真摯に向かうことの大切さを教えていただき感謝です。
長谷川博一さんのご冥福をお祈りいたします。
長谷川博一さんが評論した本
長谷川さんの著書です。リンクが入ってますが、絶版になっているのもあります。マーケットプレイス等で入手される可能性もありますので、読んでみたい人は各自ご確認下さい。
関係が深いミュージシャンのCD
本文中に掲載されているミュージシャンのCDです。記事を読んで興味を持ったらぜひ聞いてみて下さい。