1999年3月13日。佐野元春はファンクラブメンバーの為のライブを行った。
そのアンコールの時、来年迎える「デビュー20周年」に向けて、さまざまなプランがあることをファンに発表した。シングル、アルバム発売、アルバムと連動したツアー、出版、ベストアルバム、20周年記念ツアー…。
その莫大なプランを初めて聞いた時、私は正直言って「この中でどれだけ実現できるんだろう?」と思ってしまった。今までもいろんな予定を発表しておきながら、延期になったり(例えば数年前、「蝉の鳴き終わる頃にアルバムを出したい」と某インタビューで話しておきながら、発表が1年以上遅れてしまったり(笑))、実現できなかったりしていたから。
しかし、今回の佐野は違った。
これらの実現に向けて着実に活動をしていたのだ。しかも一番遅れるだろうなぁと思っていたアルバムがこんなに早くリリースされるとは、私にとっては意外な驚きだった。でも考えてみれば、前作「THE
BARN」のリリースから考えると約1年8ヶ月ぶりの新作となるわけだから、改めて考えると長かったのだが。
現在活躍しているミュージシャン達が、佐野元春を敬愛しているという話を聞いてから久しい。
Great3、TAKURO(GLAY)、プレイグス、Tokyo No.1 Soul Set、スガシカオ、そして今回佐野と一緒にコラボレーションしているDragon
Ash…。
彼らはかつて佐野がDJをしていた番組「Motoharu Radio Show」を聴いて育った人や、彼のライブを見て自分もミュージシャンになろうと思った人は数知れないだろう。96年には佐野のトリビュートアルバム「BORDER」が発売され、96年〜98年までは「THIS!」というイベントを行い、成長著しいミュージシャン、バンドが佐野と同じ舞台でプレイした。また佐野がTVの歌番組やバラエティなどに出演するようになったのは、やはり彼の音楽を聴いて育った人がやがてTVやラジオ局などのメディアで仕事をするようになった事も一因だと思う。
こうしたある意味での佐野元春チルドレンが音楽シーンの中心で活躍しているのを見て、嬉しいことである反面 、本家である佐野元春の「存在」が伝わりづらくなってきているのではという危惧も感じられた。その事は、最近の佐野のインタビューの中で彼が「もっと若い人にも自分のナンバーを聴いてもらいたい。それには「佐野元春」という名前が邪魔しているのではと思ったりしている。だから名前を変えてみようと思ったりしたんだ。例えば「シミズイチロー」とかにね(笑)。」と語っていることので、彼自身もジレンマがあったのかもしれない。
7月に発売されたシングル「だいじょうぶ、と彼女は言った」もプロモーションが少なかったような感じがしたし(「奇跡体験!アンビリーバボー」のエンディングテーマになったが)、その為かオリコンのチャートも伸びなかった(初登場54位
とは…(;_;))。新しいアルバムは今までのファンだけでなく、GLAYやDragon Ashのファンという若い人たちをどう引き付けるかがポイントとなるのは間違いない。
佐野元春は、デビュー当時から「ロックンロールの先駆者」と呼ばれていた。人より早いアクションを起こし、さまざまな影響を受けていく。16年前、単身ニューヨークで仲間を集めて製作された「VISITORS」では、NYシーンで注目を浴びていたラップ、ヒップホップサウンドを自分のアルバムに取り入れていた問題作だった。しかも今までロックンロールを表現していた佐野だったから、賛否両論が巻き起こったのは当然の事だった。
アルバムは「Stones and Eggs」というタイトルが付けられた。直訳すれば「石と卵」。一見対の存在のような感じもする石と卵が、佐野が作り出す音楽の中でどう転がっていくのだろうか。そして来年に向けて鳴らそうとしている「高らかなファンファーレ」の一つとしてこのアルバムが存在するのか、そこに注目しながら聴き込んでいる状態である。
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