その歯がゆい状態を解き放してくれたのは、今回参加してくれたBlack Bottom Blass Band(BBBB)だった。ニューオリンズの空気を感じさせる陽気な彼らが佐野やメンバーを相手に堂々と渡り合える姿を見ているうちに、徐々に私の心と体をSwinging&Dancingな状態にしてくれた。彼らに心から感謝したい。
アレンジが大幅に変わった「Wild Hearts」(ピアノのリフレインが印象的)「Do What To Like」(ニューオリンズを意識したブラスアレンジ)はもちろん、他のナンバーもブラスが入ったことで厚みが一気に広がっていた。この編成を見て、佐野がバンドに求めていた「THE
HEARTLANDへのリスペクト」により近づいてきたと思ったのは私だけだろうか。「マンハッタンブリッジにたたずんで」を久々に演奏してくれて嬉しかった。このナンバーに大瀧詠一へのリスペクトを感じたからだ。「ナイヤガラ・トライアングルVol.2」に参加して大瀧氏に出会えたことは、彼にとって大きなターニングポイントとなったと後に雑誌のインタビューで語っていたのを覚えているが、この事を改めて感じる事が出来た。
「悲しきレィディオ」で曲の中盤で佐野がスライディングした所が、何と私がいた席の目の前だった。手を伸ばせば届きそうな場所に彼がいたのである。興奮せずにはいられなかった。とにかく必死に手を伸ばして佐野にちょっとでもふれようとしていた。届かなかったけど。
「Downtown! 月に照らされて今夜も、この素晴らしい大阪の夜!」
このフレーズを聴くたびにその時その場所で行われる佐野のライブが、素晴らしい夜を与えてくれる。佐野はこのフレーズを2回繰り返し、ファンを喜ばせることを怠らない。バンドの演奏も更にパワフルになっていった。
続くメドレーでは、前回よりも躍動感を感じる。ここでも佐橋とKYONがツインギターを私のいる辺りでプレイしていた。この二人はずっと前から知っていたのだが、まさか佐野と一緒にバンドを組むようになるとは思っても見なかった。(ベースの井上、ドラムの小田原にしてもそうだが)目の前でギターを鳴らしていた二人の生き生きとした表情が、私をまた嬉しくさせてくれた。
「So Young」をはさんでメンバー紹介をした後、「彼女はデリケート」をフルで演奏。「大阪の人たちはノリが他の所より凄いか、試してみたいんだ」と佐野は様々なスキャットでオーディエンスをのらせていく。そして「すごい!他の所ではここまで続かない」と誉めて(?)、「I
Love You,You Love Me!」へ。最後は佐野もメンバーも観客も放心状態になっていた感じだった。
「僕は東京は下町の出身だから、ちょっと言葉が違ったりするけど、僕はみんなと友達なんだ。僕は友達の為に曲を作り続けるよ。(中略)僕はバンドを2つ経験した。The
HeartlandとThe Hobo King Band。聴いていると分かると思うけど、今日のThe Hobo King
Bandの演奏にはThe Heartlandへのリスペクトが込められているんだ。これからもThe Hobo King Bandをよろしくね」
最後に佐野が話した言葉。彼はデビューしてから20年もの間、私たちに親しみやすいスタンスで音楽と関わってきたことが、ここから十分に感じ取れる。曲を作り、レコードを出し、ライブを続けることで佐野とバンド(The
HeartlandとThe Hobo King Band)との固い繋がり、佐野とファンとの深い結びつきを強固なものにしてきた。彼が第一線で活動出来たのも、彼自身が持っている音楽に対する拘りを貫き続けていたからだと思う。この20周年記念ライブは、彼が今まで積み重ねてきたもの(=音楽)を佐野とバンドと観客が共に楽しみながら表現していきたいということだろう。そのライブに私が観客の一人として立ち会えた事がとても誇りに思う。