Vol.6「サイレンススズカの幻」

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1999.10.30～天皇賞秋を見る前に

今年も秋の天皇賞がやってくる。
昨日枠順が発表され、いよいよ近づきつつあるなぁと何故か今から緊張している私である。東京でも日に日に秋めいてくる今日この頃、私は「あの馬」を思い出そうとしていた。１年前のあの日に時間を戻してみたい。

1998年11月1日。東京競馬場で「第118回天皇賞・秋」が行われた日。
午後3時半頃、私は一人で後楽園WINSにいた。いつもなら競馬仲間と一緒に楽しむのだけど、この日は何故か一人だった。単に友人の都合が悪かっただけではあるのだけど、私の中で行かずにはいられなかった思いもあった。でも府中まで行くにはちょっと遠い。それならば、せめて馬券を買って応援しようと、そう思っていたのだと思う。あらかじめ予想していた馬券を買って、レースまでぶらぶらした後、WINSのビジョンでレースを見ていた。本命が別にいたので、スズカは対抗だったのだけど、今回もスズカの逃げに注目していた。後続をどんどん突き放していくスズカの大逃げにWINS中で「おぉ～」と感嘆し、このままゴールに突入…と思っていた３コーナーで、スズカの足が止まった…。
（あの日の私の詳しい足取りはVol.4に書いてあります）

私がはじめて「サイレンススズカ」の存在を知ったのは、昨年春、中山競馬場で行われた「中山記念」だった。競馬をはじめてちょうど１年経ち、馬や騎手の顔や名前もようやく覚えられた頃である。イシノサンデー、ローゼンカバリー、スノーエンデバー、サンデーブランチ…といったライバルを振り切り、スズカは初めて重賞を制した。パドックでは、厩務員に甘えながらまわっていたようだった。グリーンのメンコをかぶっている栗毛の馬の存在をはじめて知った日だった。

サイレンススズカの強さを真に感じたのは、中京での金鯱賞だった。土曜だけど仕事があったので、会社のTVでレースを見ていた。休憩時間だったので、上司たちと何気なく見ていたら、レースの初めから終わりまで、どの馬にも抜かれずにゴールまで駆け抜けた馬がいた。それがサイレンススズカと分かるまでにはそう時間がかからなかった。中山記念から3ヶ月。あの時は「逃亡者」というイメージはあまり感じられなかったが、たった３ヶ月でファンにインパクトを与える馬に成長した彼。金鯱賞は、私の中で彼の存在を注目するようになった、98年のベストレースの一つであった。
そして宝塚記念を迎える。武豊がエアグルーヴに騎乗する為にスズカに乗れなくなった。代わりに騎乗したのは南井克巳。初めてコンビを組む両者がエアグルーヴやメジロブライトなどG1馬にどう挑むか。その期待が１番人気になったのだと思う。そしてレースでは、また抜かれることのなくスズカが逃げまくって勝った（ゴール前で２着のステイゴールドに迫られそうになったが）。このG1勝利は、サイレンススズカにとって、一番至福の時だったのかもしれない。
10月の毎日王冠。エルコンドルパサーとグラスワンダー。後に海外G1馬とグランプリホースになる４歳の２頭との初対決でも、スズカは自分のペースを保って逃げまくって勝った。集まった10数万人の観客は、「ユタカコール」と叫びながら、ウィニングランをするスズカの強さに圧倒されていたようだ。
そして秋の天皇賞…。

最近手に入れた本に安西美穂子著の「地上で見た夢」がある。
サイレンススズカにゆかりのある人たちに会い、彼らを通してスズカの姿を捉えようとしていた。スズカが小さかった頃の話や、弥生賞でゲートをくぐった事件、香港で武豊に会い、その結果スズカのパートナーになった事…。スズカの幻を見つけようとする作者とカメラマン。まるで読者もあたかもスズカに会っているような錯覚を起こしそうな安西さんのこの本は、私にとってもスズカのイメージを覆されるものとなった。この本を読んでひとつ分かったことは、サイレンススズカは、人々に確実にいるということだった。

サイレンススズカ。98年、中山記念での快勝。(C)NEPPIE

明日、府中に行くことにした。
友人から誘われた時、初めはどうしようかと迷っていたのだが、もしかしたらサイレンススズカの幻を見られるかも知れない、そう思った時、行かなければならないと悟った。明日出てくる馬たちと頭の中で一緒に走らせてみたい。逃げ馬が何頭かいるけど、スズカはどれくらいのスピードで走ってくれるのか、頭の中で想像するのも楽しいかも。混雑していてレースがまともに見られるか分からないけど、とにかく行く。スズカが走った場所をこの目で確かめる為に…。

Last Update:1999/10/30

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